小説『キキさんのアルバイト』 第一話 第四章

 キキさんのアルバイト、その第一話の最終章になります。
 なんとかアルバイトの面接を終え、契約をかわすに至りました。
 今週はリアルで時間を取る事が難しく、結局、火曜日が偶然休みで、その日に図書館にPCを持ち込んで構成から本文作成まで一気に行うことに……。なんとか火曜日の投稿に間に合いましたが、全体の構成が終わっているとはいえ、これはつまり毎日が日曜日なら一日一章づつ進めるのではないか……なんて考えてしまいます。
 
 今回をもって一話分をまとめ、小説の投稿サイトに送りたいと思っています。
 どうせなら表紙も作りたい。MMDでそれっぽい絵を作り、加工してなんとか出来ないものか、などと考えています。投稿ができたらそれもここでアナウンスさせていただきますので、並べてよろしくお願いします。



01.

 キキさんたちが面接を行っていた中央会議室の西側に、壁で区切られた比較的小さなスペースがある。そこは軍議の際の控室として使われていたスペースで、二階へ続く階段もその中にあった。
 砦跡は、対砲撃性を高めるために外壁が二重になっており、細い回廊が全体を囲っている。そのため窓が存在せず、外の光を取り入れることが出来ない。
 故に、会議室内もそうだったのだが、建物の要所要所に灯りが灯されている。
 照明として使われているのは炎ではなく、ヒカリムシと呼ばれる存在である。
 ヒカリムシは、ムシと名付けられているが昆虫類ではなく、生態のよくわからない「光る存在」である。その土地その土地で付けられている名前が違い、人によっては精霊などとも呼ぶ。
 燐を含んだ石や土を好む事が知られており、それを餌にしてガラス瓶などに封じ込めて照明として使われる。
 会議室から移動する際に、クークラがその先頭を買って出た。手にはランタンを持っている。回廊に潜むために用意していたもので、中には当然ヒカリムシが封入されていた。本人が森の中で捕まえてきたもので、この砦跡の照明は自分が担当していると、誇らしげにキキさんに言った。
 クークラの、ヒカリ揺らめくランタンに導かれ、ハク、キキさんの順に二階へ上がる。
 その後ろ。ランタンの光のギリギリ外側から、キキさんのカバンが、またエッチラオッチラという感じで歩きながら着いてきていた。
 二階は普段はあまり使っていないようで、廊下に並べられたガラスの箱はほとんどが空で、幾つかの箱に最低限のヒカリムシが灯されているだけだった。
 ハクの説明によると、その暗い廊下が二階の外側をぐるりと囲み、部屋は全て階の中央に並んでいる。会議室や資料室、実務室が集中していた一階とは違い、二階は全てが士官や将校の私室だったのだという。
 三人は、階段から一番近くにあった角部屋に入った。
 そこもヒカリは灯っていなかったが、僅かな隙間から光の漏れている物があった。闇を見通す目があれば、それは灯台で、木で作られた半球形のカバーが被せられていることがわかるだろう。
 暗闇の中、ハクは慣れた足取りで灯台に近づき、そのカバーを外した。
 隙間から漏れ出ていた光が一気に広がり、部屋の中を照らしだした。
 質素な部屋だった。
 壁は灰色の混凝土の打ちっ放し。一人用のベッドと木製の机。ロッカー。そして灯台のほかには最低限の調度類しか置かれていない。
 ヒカリムシの照明は光量を調節できない。そのため、カバーを用いて点灯させるのである。
 光が灯ったので、クークラはドアを閉めようと入口の方を向いた。すると、まるで駆け込むようにして一つのカバンが部屋の中に入ってきた。キキさんのカバンの存在を知らなかったクークラはギョッとしたが、なんとなくユーモラスなその動きを可愛らしく思い、それを手にとった。クークラの腕の中で少しの間カバンはジタバタとしたが、すぐに諦めたようにおとなしくなった。
 クークラがそんなことをしている間、ハクはキキさんとロッカーの前に立ち、掃除用具の説明をしようとしていた。
 キキさんは、しかしそんなハクに対して、まずは自分のやり方を見てもらってもよいかと丁寧な言葉で提案する。ハクはそれを了承するが、その様子を見てクークラは、やっぱり主導権はキキさんに握られているな、と、苦笑いを漏らした。


02.

「灯台の覆いをお借りしてもいいでしょうか?」
「いいですけど……暗くして掃除をするんですか?」
「いえ、光は灯しますが、別の光源があると少しやりにくいのです。見ていていただければ理由はわかると思います」
「そうですか……では……」
 ハクは自ら灯台に近づいて、カバーを取り付けた。
「クークラさん。すみませんが、そのカバンをこちらに」
 再び暗くなった部屋の中、クークラはカバンを手渡した。カバンはクークラの手を離れるときに少しだけ抵抗したが、キキさんの気配を察すると、今度はむしろ積極的にクークラから離れてキキさんの手に渡って行った。暗闇では、そのカバンから灯台と同じような光がわずかに漏れ出ているのに、クークラは気づいた。
 キキさんはカバンを床に置いて、その口を開ける。
 カバンから光が溢れだした。
 一瞬目がくらみ、顔を背けたクークラが再び前を向いた時。
 キキさんの周りを、四つの光の珠がグルグルと飛び回っていた。部屋の中はそれによって照らしだされ、光源の動きに合わせて部屋中に影が踊りまわる。
 その中心にいるキキさんからは四本の影が投影されていた。
 クークラはカバンが床の上に置かれているのに気づき、掃除の邪魔にならないようにと手にとった。さっきみたいに一人でに動き出すことを予想したが、しかしカバンは全く力なく、ただの無生物になっていた。
 キキさんを取り巻く四つの光源は回り続け、影もそれに合わせて動いていたが、やがてキキさんの影だけが光源の動きに同調しなくなっていった。
 灯台の影、ベッドの影、机の影。ハクの影、カバンを抱えたクークラの影。光に支配されたそれらの影とは違い、キキさんの影は勝手に動き始め、呆気にとられて見ているハクとクークラの目の前で、ついにキキさんの身体から切り離された。
 キキさんの身体から離れた四つの影は、その動きを止め、スクリーンとなっていた床や壁からも開放され、ゆっくりと起き上がるかのように実体化した。
 その手には、いつの間にか箒やモップなどの掃除用具が握られている。
 クークラは呆然としながらそれを見ていた。隣りにいたハクも驚いてはいたが、クークラの純粋な驚きとは少し違うものを持っていた。
「シャドウサーバント……」
 ハクの口から思わず言葉が漏れた。
 ハクはこの魔法を見たことがあった。まだ母ミティエーリが生きていて。まだ戦争のまっただ中にあった頃。氷の種族でも高位の魔道士が使用していたのだ。
 自分と同じ能力を持つ「影」を作り出すこの魔法は、戦闘において強大な力を発揮したと聞いている。
 光の中心にいるキキさんは、揺らめくように動いている影達を手振りで操り始めていた。その姿は、まるで楽団の指揮を取るコンダクターのようで、キキさんの一挙手一投足に反応して影達は掃除を始める。
 別々の道具を持った影達の完全な連携のもとで掃除は進められていき、本体のキキさんはその指揮をしながら掃除の終わった箇所を検分し、仕上げをする。
 瞬く間に、少々ほこりっぽかった部屋の中は、塵一つ、拭き残しの一箇所もない状態に仕上がっていた。


03.

 最後の仕上げを終えると、キキさんはクークラに近づいた。
 一瞬、何なのかわからずにいたクークラは、カバンを手にしていたことを思い出し、キキさんに渡す。カバンを受け取ったキキさんがその口を開けると、その中に四つの光球が吸い込まれていき、口を閉めると同時に、また部屋の中には闇が満ちて、そして四つの影も闇に飲まれていった。
「あの……?」
「なんでしょう、クークラさん」
「カバン、動かなくなっちゃんたんだけど」
 クークラに聞かれ、キキさんは自分の手にあるカバンを持ち上げて、見た。
「ああ。これは魔法で自動的に動くようにしていただけでしたので、むしろ元の状態に戻ったのですよ」
「そうなんだ……」
 キキさんの言葉を聞いて頷いたものの、自分の手の中で動いていたカバンを思い出し、クークラは少し寂しく思った。
 ハクはハクで、それを聞いて再び昔のことを思い出した。
 まだ戦時中の頃。
 氷の種族の中に「アニメート」という魔法を使うものがいた。これは無生物を生物のように動かす魔法で、鎧や剣といった無機物を手駒として使い、戦闘に役立てていた。
 やがて使い手は、その術を生物の死骸にも応用できるということを思いつく。
 死骸はただの無機物以上に術を施しやすかったらしく、使い手は大量の敵軍兵士の死骸を我が物として操り、人手不足だった氷の種族の中にあって大きな戦果を上げた。
 母ミティエーリよりもわずかに長く生きたその使い手は、しかし下の大地の人々の深い怨みを一身に負って、ミティエーリが討たれた後の数日間にわたり氷の種族の中でも最も惨たらしい刑に処されたと聞いている。
 シャドウサーバントにしても、このアニメートにしても、習得には深く広い魔法知識と、高いレベルの魔法力が必要と聞いている。
 そんな術を使っていたキキさんは今、クークラのさらなる質問に対して、モップや箒にこの術を使って、自動的に掃除をさせることも出来る、などと答えていた。
 まさかあんな魔法を掃除やら日々の生活やらに役立てようとする存在がいるとは、ハクには思いもよらなかった。確かにあれだけの実力があるならば、この砦跡の管理も通いで行うことが出来るだろう。それにしても、そんな人材がなんで家政婦のアルバイト募集なんかに応募してきたのやら。
 そんなハクの思いをよそに、キキさんはクークラの質問から開放されると、ハクの側に来て言った。
「申し訳ありません。差し出がましいことをしてしまったかもしれません」


04.

「そうですか?」
 ハクは、灯台のカバーを外しながら言った。部屋の内部を再び光が照らしだした。
「はい。今の自分の掃除法は、自分にしか出来ないものです。いつ辞めるかどうかも解らないアルバイトである以上、あまり特殊なやり方で仕事をするべきではないと考えます。いいえ、もちろん、我がマスターの名誉にかけて中途半端に仕事を投げ出すつもりはありませんが、それでも掃除はもう少し普通のやり方を以ってすべきかと思いました」
 ハクは、キキさんがなぜそのように考えたのか、理解しかねた。そもそも掃除をし始めた段階ではそうは思っていなかったのだろうし、このやり方を目の当たりにした自分には、住み込みを強制することが出来なくなるとも考えていたのではないかと思うのだが。
 しかし、キキさんの目線がクークラに向けられたことで、ハクも納得がいった。確かに誰にでも出来る方法でなくては、手本にはならない。
 ハクは感謝を込めて、キキさんに頭を下げた。
「お手数をかけますが、お願いします」
「はい。ただ……」
「?」
「やはり普通の方法だと、通いで仕事をするには、この砦跡は確かに少し広いと考えます。さりとて、わたくしとしましては自分の館の維持管理が最優先する問題であることに違いはありません」
「はい……では……」
「そこで、シフトを、週に三日をこちらの仕事に充て、続く二日間を公休としていただければ、と思うのですが」
「なるほど。では残りの二日は……そうですね、通いでの出勤を前提とした予備日として考えてもいいですか?」
「そうしていただければありがたいです」
「では、その方向でもう一度、条件面について詰めさせて下さい」
「はい。一度、会議室に戻りましょうか」
 二人は、クークラに後はまた仕事の話をしてくると言って、部屋を出て行った。そのやり取りを見て、クークラは一人つぶやいた。
「……やっぱり、主導権はキキさんが握ってるんじゃん……」
 まぁいいか。下で盗み聞きをしていた内容と合わせて考えてみても、キキさんがハクに譲ってくれたようだし、自分としても好印象を持った。
 その手には、キキさんが忘れていったカバンがある。
 契約書にサインするあたりを見計らって、これを渡しに行こう。長い付き合いになるかもしれないし、どうせならカバンやモップを動かす術なんかを教えてもらえればいいな。
 しばらくしてから、クークラはヒカリムシの灯台にカバーを被せ、部屋を出て行った。

 数日後。
 昨晩までに自分の館の掃除を終えたキキさんは、その日、朝早くに眼を覚ました。
 出勤時刻まではまだ間がある。
 普段から欠かさない、運動を兼ねた棒術の鍛錬をし、シャワーを浴びて汗を流す。
 風呂あがりの薄着で自室に戻ると、そのままの格好で暫くのあいだ髪を乾かしつつ読書を楽しんだ。
 出勤時刻に間に合うように仕事着に着替え、黒い革のコートを羽織る。館を出る前に、円卓の間に入り、アルバイトに行っている旨と、行先、帰宅予定日を書いたメモをマスターの席の前に置いた。
 そして静かに、マスターの椅子にお辞儀をして部屋を後にした。
 ドアを閉めた直後、無人になった部屋の中に、錠の落ちる音が重々しく響き渡った。

この記事へのコメント

  • yuki

    コメント遅くなりました。第1話終了、お疲れ様です。
    話は即日で読んでいたんですけどね。;
    毎週火曜更新って事で、思い出す度に更新確認してました。w
    更新されたの、結構遅い時間だった様な・・・。

    遂に明かされたキキさんの実力・・・底が知れませんね。
    そしてそれを教えて貰えたらと考えるクークラ・・・
    習得出来ると思っているなら、こちらも結構な実力というか、潜在能力の持ち主なのかなぁ・・・
    と思ったのですが。
    シャドウサーバントに純粋に驚いている辺り、単なる子供としての好奇心・・・いや、子供?なのかな??
    魔導生物としてのクークラも謎が多い・・・というか、謎しかないです。

    続きも楽しみにしていますね!
    2016年02月26日 18:45
  • ロキ

    >>yukiさん

    読んでいただきありがとうございます。

    今回も、投稿は火曜日ギリギリでした……。
    実は、キキさんに関しては目標にしていることが幾つかあり、そのうちの一つが、締め切りを設定すること。火曜日なのは、最初に投稿したのが火曜日だったから。

    あとは、一章を5000文字以内に収めるとか、二章に一回の割合で閑話休題を挟むとか。他にも色々。

    それにしても、締め切りを設定するという事の効果はかなり高いです。
    「この日までに構成を終わらせる」とか、「今週はこの日しか開けられないからそこに全力投球」とか、予定(というか心構えレベルだけど)を建てられるようになりました。

    そんな締め切りが設定されていないヘイムダルさん……。いや、そっちも頑張っていこうとは思っています。最近、ゲームから離れ気味なので!

    どうでもいいけど。
    シャドウサーバントもアニメートもロマサガの術なのですが。
    キキさんのキャラクタは、RPGのラスボスを倒せるような術を日常生活のために使う、という自分好みのイメージを体現させられたら、という一面もあります。
    2016年02月26日 19:49
  • RainySoul

    いつか読もう、いつか読もうと思いながら。
    本当に激遅で申し訳ないのですがw、昨晩にこの第一話分の終了まで一気に読ませて頂きました。

    キキでも、キキちゃんでも、キキ嬢でもなく「キキさん」。この呼称の仕方と「アルバイト(お仕事)」というタイトルから、たぶん私にとってもストライクゾーンのキャラ&ストーリーなんじゃないかな? とは以前から予想していたのですが・・・・・・。

    案の定、ストライクゾーンど真ん中っぽいです(^^)

    この4章に関しては「ロマサガかな?」って思いながら読み進めたら、やっぱりロマサガだったw
    冒険者時代のキキさんは、シャドウサーバントからの不動剣とか乱れ雪月花をぶっ放していたんだろうか? なんて想像してみたり。
    (いや、キキさんは後方支援系の担当でしたっけ^^;)

    あと、個人的にはツクモ神のカバン君(?)がいい味出してるなぁ、って感じました。
    喋らないけれど、キキさんに嬉々として(笑)付き従っている様子が見て取れるところとか。
    クークラに対してもなにか含む所があるようなw(まさか、カバン君は幼女しゅ・・・・・・)

    また近いうちに続きの話を読ませて頂こうと思ってますので、最新話に追いつけるよう頑張ります!
    2016年04月03日 12:06
  • ロキ

    >>RainySoulさん

     コメント返信が遅れてしまい申し訳ありません。

     読んで頂き、ありがとうございます。
     自分の中にあった「出来る女性の仕事の話とか面白くね?」 というイメージを、なんとか形に出来ました。

     また、ブログに掲載している単章の作品を加筆修正してE★エブリスタなどの投稿サイトにアップしています。栞を挟める機能などもありますので、第二話などは、読むのであればそちらの方が良いかと思います。
     注文をつけるようで申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

     シャドウサーバントもアニメートも、もともとは冥の法術だったり、アニメートに至ってはデスやサルーインが使ってきたりする術。
     「ちょっと街まで行く」ための飛行術が闇っぽいのも含め、キキさんの使う術を闇とか冥っぽいものばかりなのも意識していたりします。

     キキさんは、後で出てきますが、冒険では後方支援担当で棒術使いだったりします。
     彼女の放つ、シャドウサーバントからの「かめごうら割り」は強烈です。
     ロマサガの棒は、実際には棍棒なので、ちょっと自分のイメージとは違いますが……。

     あと、番外編として水属性の先輩ルサさんを出すつもりですが、多分、彼女はクイックタイムを使います。
     もう、チートです。
    2016年04月04日 13:08