◇ キキさんのアルバイト 番外編 往きて還りしルサの物語 ◇ そのニ:森の仲間達

 呼ばれもしないのに押しかけた女志村喬、ルサ。一人七人の侍。
 この後のルサの、往きて「還る」までの話も既に出来ていますが。
 北の辺境・旭川にあるとあるスパの、38℃くらいのぬるま湯に浸かって、30分程度で思い浮かんだ話にしては、結構おもしろくなったような気がします。
 マスターを除けばほぼ唯一の、キキさんですら頭の上がらない先輩ルサの活躍を、あらすじのようなものではありますが、御覧ください。







◇ キキさんのアルバイト 番外編 ◇
其のニ 森の仲間達


 戦うのであれば、手を貸そう。
 私は冒険者である。それも凄腕の、だ。
 ドラゴンを狩った経験もある。
 戦い方を教える事が、私には出来る。
 みなを率いて敵を退けることが、私には出来る。
 ルサは「森に棲む者」達の前で言った。
 戦うのであれば、この私が手を貸そう。
 森の年配者達は彼女を敬遠し、危険思想を持ち込むとして排除しようとした。
 しかし若い者たちは彼女に与した。
 ルサは言った。
 この度の人間達の暴挙は、彼らに対する氷の種族の侵略よりも更に非道のものである。
 我々が反抗しなくては、付け上がった人間たちは他の森でも同じことをするだろう。
 ルサは物事を深く考えるのは苦手だが、その場の雰囲気を盛り上げるのは天才的に得意だった。
 結果、年配の者達の大部分は森の奥に逃げ住み、若者たちは川辺に集った。
 後々までルサと共に戦い、やがて袂を分かつことになる、弟子であり仲間となる若者達、ベレギーニャ、レーシイ、ボジャノーイ、マーフカは、この時点で見出した。
 抗戦の動きは人間たちにも伝わった。
 森の辺縁に集まった人夫達の多くは、かつて氷の種族と戦った経験を持つ元兵士でもある。
 森に棲む者達など何するものぞ、と、彼らは激した。正義はむしろ自分たちにあるとも信じていた。
 人数に劣るルサ達は、地の利を徹底的に活用したゲリラ戦略を採った。
 水を使い、木々を使い。
 そして自身の能力を使い、軍隊化した人夫たちを苦しめた。
 ルサも最前線で戦った。劣勢の戦線でも、彼女が援護に来れば、森に棲む者達は士気を上げ、人間たちを押し返した。
 かつて四人の有力な後輩達をその背中で引っ張っていた冒険者時代そのままに、ルサは森に棲む者達を強力に統率した。
 しかし、森に棲む者達も、そして森や河自体も無傷では済まない。
 人間たちの敢闘精神は高く、軍隊としての能力も決して低くはなかった。
 単純に守っているだけではいつか押し負けてしまう。そこでルサ達は新たな戦略を立てた。
 人間達が、運河を作るために持ち込んだ資材を奪い、足りない分は森の木々を切ってまでして、河を堰き止めた。
 本来ならば河と森を守るべき護岸の精でもある、ルサの腹心となったベレギーニャがあえて打ち立てたこの捨て身の戦略は、森へのダメージも甚大で、地形は変わり多くの木々が失われた。反対意見も強かったが、しかし敵に与える影響も大きかった。
 森の南北にある二つの街。
 軍隊化した人夫達の雇い主でありながら、それまで戦火に晒される事のなかった街の人々を、森に住む者達は巻き込んだのである。
 下流の街では、生活の基盤でもあった水を失い、厭戦の気分が満ちた。
 それが極限まで高まった後、ベレギーニャは河の堰を切った。
 鉄砲水に襲われた下流の街には、壊滅的なダメージが与えられた。
 ルサがちょっと引くほど効果的で合理的、そして無慈悲なベレギーニャの策だった。
 ついでルサ達は上流の街にも宣戦布告をした。
 実際これは現実的ではない。
 ルサ達が人夫たちに抗し得たのは、地の利を活用したためである。街を攻めるような戦力などなかった。
 しかし、それは街の人間には分からない。下流の街が壊滅の憂き目を見たことにより、彼らの恐怖心は劇的に揺さぶられ、ついには森の開発をやめ、これよりは神域として近づかず、カミとして祀るので許してくれと願いでた。
 それに怒り狂ったのは、森に住む者達と激戦を繰り広げていた人夫たちである。
 自分たちの頭越しに結ばれた停戦協定を無視し、彼らは最後の攻勢を森に仕掛けた。
 後に開発するという本来の目的を捨てて、森を焦土と化さんとして火を放った。
 ルサたちは辛うじてこれを防ぎ、全焼は免れたが、森は少なからず延焼した。
 神域と定めた地を炎に晒したとして、上流の街の人間たちは傭兵を雇い人夫たちを襲撃。人夫たちは人夫たちでこれを恨んで街を襲った。
 最終的に上流の街は力を失い、そして暴徒化した人夫たちも散り散りとなって戦争は集結した。
 その後、ゆっくりと森を回復させていく生活をルサたちは送る。
 ルサは、戦った若者たちの反対を無視して、森の奥に逃げた年配の者達に頼み込む形で、森の回復の事業に参加してもらった。年配の者たちも、若者に頭を下げて、植林の業を伝えた。
 その間に、人間の開発の手に晒されるようになっていった各地の森や山の住民たちが、見事に人間の侵略をはねのけたルサたちの業績を知り、助けを求めに来るようになるのだが。
 それはまた別の話。

この記事へのコメント

  • yuki

    番外編その2のアップお疲れ様です。
    30分で思い付いたにしては、スケールデカ過ぎぃ!

    気分屋でノリが良い一方で、キキさんを叱咤激励したり、人を見る目と面倒見の良い印象だったルサ姐さん。
    戦争後に周りの反対を無視して、逃げた年配者に協力を仰ぐ辺り、かなり大人びた印象も。
    当初、自分を排除しようとした者達でもあるのに・・・。

    あらすじによる印象はこんな感じ?
    やっぱりキャラは喋ると性格が出て来ますね。
    番外編後半、物語のラスト登場にも期待です!
    2016年04月24日 12:21
  • ロキ

    >yukiさん

    他に何もすることが無く、ただ考えだけを練っていける状況ってあるじゃないですか。

    よく、物事を思いつくのは「三上(馬上、枕上、厠上)」と言いますが、そんな感じの30分でした。

    ルサ姐様のキャラクタは、自分の中では結構できあがっているのですが、よく考えたら読んでいる人にはまだ伝わっていないんですよね。

    カリスマらしいカリスマというか。

    自分の行動原理をしっかりと持ち、それを曲げません。

    例えかつての敵であっても、今、敵対する理由がなければ昔のことには拘りません。

    激情家である割にサバサバしていて、その時点での敵と味方の区別をはっきり付けるけれど、状況が変わって敵対関係が終わればノーサイドと考えることができます。

    そして意外と目の前のことしか考えることができない。
    後々の展開まで考えていない。

    個人的には、尊敬してやまない偉人の一人「ネルソン・マンデラ(の自分の中での理解したイメージ)」を萌化して姉御属性を付けたような……。

    いや、ルサ姐様は、義侠心は強いけれど、意外と皆のことを考えているわけではなく基本的には「自分」が最優先。

    森の人たちを助けたのも、自分の感情として人間たちの横暴が許せなかったから。

    多分、牢屋につながれる状況になったら、法とか無視して暴れて逃げ出すでしょうし、そのあたりはマンデラ氏とはぜんぜん違う。

    それ以前に、故マンデラ大統領のイメージに何晒しとんねんという感じかもしれませんが。

    書いてみるとマンデラ氏って感じじゃないか……。

    (主に北方謙三風味の)水滸伝の晁蓋が一番近いかも。

    まぁそんな感じの女性です。

    まとまらない文章で申し訳ありません。
    2016年04月24日 20:17