◇ キキさんのアルバイト 番外編 往きて還りしルサの物語 ◇ 最終回:往きて還りしルサの物語

最果ての森より往き、最果ての森へ還るルサの物語もついに終焉。
これまではセリフの一切ない描写を心がけていましたが、今回は逆にセリフ劇にしてみました。
あとは本編の第四話第四章と、エンディングのみ。思えば、キキさん達とも長い付き合いになりました。
5月はリアルが非常に忙しい時期で、それがエンディングと重なったのはちょっと残念かも。
とりあえず、5月22日締め切りの表紙プレゼント大賞は諦め、キキさんの全編をUPした後、もう一度全体を見直して、エブリスタの何かの賞に応募してみようかと思っています。
今のところ、候補は「エブリスタ小説大賞2016-17 三交社 エブリスタWOMAN小説賞」。
応募要項の①に「主人公の年代は20~30代女性」とありますが、キキさんは280~310くらいの設定……まぁいいか。
少し応募作品を見てみましたが、ズラッと並ぶジャンル「大人の恋」「純愛」「ラブコメ」……。
うーん……キキさん、かなり浮いちゃいそうだけど。
まぁいいか。

ちなみに。
参加作品をいくつか読んでみた過程で、「猫男喫茶の来客」(作:植物さん)という作品と出会いました。
エブリスタで、初めて「金を払ってもいいレベル」と思った作品。
興味があればお薦めします。

さて。
今回でてきた単語で、「魔の翠玉」があります。
これは本当は「緑の夢」(byクロノトリガー)にしたかったのですが、ここまで「シャドウサーバント」「アニメート」「亀甲羅割り」「氷結晶(モデルが永久結晶)」「ブラックファイア」、作品では出てこないけど裏設定的としてルサが使う法術として「クイックタイム」(ルサはチートキャラ)、そして今回の「ネマワシ」など、ロマサガから単語を取ってきているので、あえて「運命石・魔のエメラルド」を使用してみました。……なんでそんなものを持っているのだマーフカ。

……いや。ただそれだけの話です。

では。
ルサの最後の仕事。お楽しみいただければと思います。






◇ キキさんのアルバイト 番外編 往きて還りしルサの物語 ◇
 最終回:往きて還りしルサの物語


 会議は、ルサ達の森の中にある三角屋根の木造建築で行われた。
 百年前の攻防戦において、戦況を一変させたベレギーニャ発案の水攻め。
 しかし、そのために森もまたダメージを負い、多くの樹々が失われた。
 犠牲になった樹を、森に住む人達は製材し、平屋の建物を作った。
 内部は部屋で区切られていない大きな広間になっており、中央に置かれた長机は、失われた樹々の中でも、最も大きく、崇められていたクリの樹で作られていた。
 つい先日、人間たちの国でクーデターが起こった。
 急報を受け、山河の義勇軍として今後の方針を決める会議を行うため、各地の山河からリーダー格となっている者たちが駆けつけた。

 居並ぶ面々の中で、全体の総指導者であるルサが熱弁を振るっていた。

「我々は、かつて弱い存在だった。人間の都合で住処を追われかけ、それに唯々諾々と従おうとすらしていた。しかし、我々は反抗した。幾つもの戦を重ね、犠牲も払った。その過程で強さを得、その強さによって、同じく弱い存在だった同胞たちを守り、育てた」
 ルサは続ける。
「我々はこの百年、この強さを、同胞を守るために振るってきた。だが。ただ同胞だから守ったわけではない。弱い者だったから守ったのだ。弱い者を守るために、力を養い、使ったのだ」
 声に熱がこもる。
「人間たちが内乱状態に陥るのはもはや明らかだ。戦争によって泣くのは、常に弱い存在の者である。それは、人間であっても、同胞たちであっても同じだ」
 しかし、ルサが期待したような反応が、居並ぶ面々から感じられない。どこか白けた空気が流れ始めている。
「我々は、内戦のために追われ、泣く者があれば、人間であっても受け入れ、守る。そして戦乱に乗じて不義を成す者があれば、これを討つ。それをこれからの行動方針とする」
 賛成の拍手はなかった。ルサは挑戦的な笑みを浮かべた。
「なんだ? 反応が薄いな? 人間を助けるのには反対か? しかし、これはただの正義感で言っているわけではないぞ。内戦が終わった後。人間を助けることは、内戦が終わった後の我々の立場にも有利に働くはずだ」
 ルサがそこまで言ったところで、彼女の参謀にして腹心、護岸の精であるベレギーニャが鋭く指摘した。
「私達が黙っているのは、人間を守る守らないのような問題が理由ではありません」
「ほう? では何が問題なんだベレギーニャ」
「このような重要な指針の変更を、貴女はなぜ独断でなさろうとする。私達はそれに戸惑い……いいえ、反感を感じているのです」
「しかしベレギーニャ。状況は急変した。今までと同じ方針でいいはずが無いだろう。性急かも知れないが、皆に諮る時間もなかった」
「貴女の言っていることは、方針としては正しい。内戦で泣く立場の人間を助ける。私達はそれを否とは言わない。内戦後の政治的発言力の確立に考えを及ばせる必要性も、確かにある」
「ならば!」
「ですが。その方法が問題なのです」
「……お前ならばどうする。聞かせろ」
「人間を取り込むのには賛成。しかし単に自由独立の集団として第三勢力になってしまっては、いたずらに状況を引っ掻き回し、内戦を長引かせるばかりになります。また、弱い立場の者を助けるだけでは、覇権を握った勢力への発言権など得られない。むしろ戦中戦後に敵対する可能性すらある」
 冷静な口調のベレギーニャの語り口は、情熱的なルサとは対象的である。
「まずは内戦を勝ち抜くであろう集団を選定し、それに手を貸す。そしてその集団に出来るだけ早く覇権を握らせるよう協力し、最短時間で内戦を終結させるのです。それで初めて私達は政治的発言力を得ることが出来、また未来における、弱く泣くものの発生を防ぐのです」
「だが! そのやり方では実際に泣くことになる弱い者たちを守ることは出来ない」
「貴女のやり方は、目の前にある千の悲劇を救うでしょう。しかし内戦を長引かせ、将来的には万の悲劇を生み出すのです」
 ルサは深くため息を付き、少し考えた。
 もともとルサほどに弁が立つわけではないベレギーニャは、緊張した面持ちでルサを見つめた。
「どうやら、今回は私とお前で、考え方が違うようだ」
「私の意見を採択するつもりは、ないと?」
「私がこの集団のリーダーだ。最終的な決定権は私にある。そして、今は納得行くまで話し合う時間はない。目の前に。千の悲劇が生まれ始めているのだ」
「……いいえ。貴女は既にリーダーではない」
「ほう?」
「確かに貴女は私達の英雄だ。貴女が居なければ、私達は百年前にこの森を失い、その後、人間たちのフロンティアが各地の山河を蹂躙したでしょう」
 ベレギーニャは、言いながら居並ぶ面々を見回した。その中には、ベレギーニャと共に最も早くルサを支持した盟友、レーシイ、ボジャノーイ、そしてマーフカも居た。
「しかし。私達はもはやあの頃とは違う。ただ抗うしか無かった、あの頃とは違うのです」
 ルサは渋面を作りながらも、ベレギーニャの話を遮らなかった。
「貴女は解放者であり反抗者だ。我々に戦う力を与え、無法の侵略に反抗し、私達を解放した。だがもはや状況は変わった。私達は、実力を伴った一個の勢力として独り立ちする時期が来たのです。私達がこれからやることは、自らの解放でも、ましてや反抗でもない。自律なのです」
「簡単なことを難しく表現するのはお前の悪癖だベレ。つまりあれだ。親離れをするべき時が来たと、そう言いたいのだろう?」
 ルサは、声を厳しくして言った。
「だがお前がどう言おうと、現在のリーダーは私だ! 誰からも辞めろと言われたことがないからな。そして親とは、子供がいくつになっても、その行動を気にする存在だ」
「子は、親の知らぬ間に大人になるもの。……皆に問う! ルサを今後ともリーダーとして認める者は起立せよ!」
 ベレギーニャの声に、立ち上がったのは少数だった。
 ルサを支持した少数派の中には山河の義勇軍の中核でもあるマーフカが居たが、ボジャノーイとレーシイは、下を向いたまま座っていた。
 マーフカは、アレ? アレ? と言いながら、キョトキョトと周りを見回し、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「ベレ……お前、この僅かな期間でどれだけのネマワシを……」
「……かつて貴女を排除しようとした長老たちは、植林の業を伝える際にこう言いました。能く枝葉を伸ばす樹は能く根を張っている、と」
 尊敬する者への反抗を成功させたベレギーニャは。
 しかし虚脱したように話しだした。
「樹を移植する際、あらかじめ広がった根は、根元を中心に残して切り、細根の発生を促します。そうすることによって、植え付け後の活着を促進し、結果としてより大きな樹に育つ……」
「だから言ったろう。お前は小難しく言い過ぎるんだ。リーダーってのは、果断に、瞬間的に、一発でわかりやすい言葉で話せ」
 ルサの言葉には、棘はない。
 むしろ明るさがあった。
「なるほど、私はすでに根の中心から外れてしまっていたようだ。根回しすら出来なかった。そんなリーダーに、これからの山河の民を任せることなど出来ん」
「ルサ……私は……」
「胸を張れベレギーニャ。お前は英雄に勝った」
 人間との攻防戦でも、ルサは勝ち負けには拘ったが、負けた際には周囲が驚くほどあっさりとそれを認めていた。それでもこんなにも朗らかに負けを宣言したことはなかった。
「……私の負けだ。リーダーの座を辞し、引退する」


数日後。
ルサは密かに旅装を整え、森の外れまで歩いていた。
森の出口に、百年前に見出した、弟子であり仲間であり、家族以上の存在となっていたレーシイ、ボジャノーイ、マーフカ、そしてベレギーニャが待ち受けていた。

「黙って出ていこうと思っていたが……バレバレだったか」
「ルサ。そりゃバレバレですよ。せめて挨拶くらいさせてください」
 ルサと同じ褐色の肌に金色の瞳を持つマーフカが言った。
「本当に行くんですか?」
 魚の尾を持ち、動物を従える能力を使うレーシイが聞く。
「……寂しい……」
 魚のような顔立ちをし、獣の四肢を持つボジャノーイが呟いた。異形のため、表情がよくわからない。
「悪いが、私の役目は終わった。立ち止まってみると……疲れがどっと出た。家に帰って、少し休むよ」
「私たちに……いえ、私には貴女のようなカリスマ性と実戦指揮能力はない。そもそもこれからは再び戦時となります。最有力の将が居なくなるのは大きな痛手なのですが」
「よく言うよ、ベレ。利用できるものを利用しようというその性根は認めるが……、言っただろ。私は家に帰る」
「では……」
 …………
「……どうした。何を言いよどむ? どんな苦言でも躊躇わなかったお前らしくもない」
「……ルサ……あなたには私の妻として、側に居てほしい」
「……ベレ……そこまでして私を……いや、この種の話に手管を絡められるお前じゃなかったな」
「是非……是非!」
「……悪い」
 ルサは、美しい女性の姿をしたベレギーニャに対して、あっさりと言った。
「私に百合趣味はないんだ。私の好みは、渋いナイスミドルだ」
「…………」
「黙るなよ」
「…………グス…………」
「泣くなよ!」
「だって……」
「だってじゃない! ……まったく……仕方ないな」
 ルサは俯くベレギーニャに近寄り、その顎に人差し指をかけて上を向かせた。
 そして、その唇を奪った。
「うわ。さすがルサ」
 マーフカがなぜだか嬉しそうに言った。
「自分たちには出来ないことだな……」
 レーシイが肩をすくめた。
「……ズキュウウン……」
 ボジャノーイは表情を変えず、言葉だけで驚きを表していた。
「n……ちょ……ちょっと……」
 ベレギーニャが驚きのあまりルサを押しのけるようにして身を引く。
「置き土産だ」
 ルサは冷静な口調で言って、もう一度ベレギーニャを抱き寄せ、今度はさっきよりもずっと濃厚なキスをした。
 ベレギーニャはもう、ルサのなすがままだった。
 しばらくして。
 ルサが唇を離すと、ベレギーニャは頬を上気させたまま、呟いた。
「……ズルい……」
「ああそうだ。どうせなら私も何か餞別がほしいな。いや、退職金か?」
「あ。だったらこれをあげます」
 マーフカが、呆然としているベレギーニャを押しのけてルサの前に立ち、付けていた深い緑色のイヤリングを外した。
「魔の翠玉!? これは……さすがに受け取れん」
「いいんです。ルサが居なかったら、この運命石も人間の手に落ちていただろうし。国教会が資金調達に使っていたっていう、魔王の娘の氷結晶並の値段がつくと思う」
「むしろ換金なんて出来なさそうだな」
「売ってくれたほうがいいんだけど。縁があったらまた私の手に戻ってくる可能性が高くなるからね」
「お前らしい答えだ。では、受け取らせてもらおう。家で……ただ百年、家の維持を……意地でやっているだろうアホな後輩が居るんだ。いくらなんでも資産は半減しているだろうから、その維持費に当てさせてもらう」
「うん」
「さて、それじゃ本当に行くぞ」
「わかった! じゃぁね!」
「自分たちも頑張る。貴女のことは忘れない」
「……本当に寂しくなる……」
「……あの……もう一回……」
「欲張るなベレ。……じゃぁ」
 ルサは手を振って、森の外に駆け出していった。
「またな!」

 帰りの旅路。
 ルサは一人、呟いた。
「それにしても。なんで私は女にばかりモテるんだろう? 今までにも言い寄られたことは何回もあったけど、八割方女からだったぞ? しかも今回は妻として、かよ」
 ルサはため息を付いた。
「ああ、どっかに、フリーで、男らしくて、ダンディで、朗らかなナイスミドルは居ないものかな」

 後輩の待つ最果ての森の館に。
 こうしてルサは還って行った。

この記事へのコメント

  • yuki

    え?!
    ベレギーニャさん、実は男性だったのか?!?
    妻として、って・・・なんだ、百合か。
    ふぅ、良かった良かった。
    いや、それで良いのか??;

    っと・・・番外編最終話upお疲れ様です。
    さり気無くジョジョネタが入っている気が。w
    そしてやっぱり、ルサ姐は男前ですね・・・。
    ベレギーニャ始め、レーシィ、ボジャノーイ、マーフカ、全員女性な気がしてきました。
    少なくとも、ベレギーニャさんは女性だと思ってました。
    何処にもそんな事は書いてなかったし、台詞も無かったけど・・・何故だろう?

    とりあえず。
    ルサ姐がリーダーから外れた経緯が、和解によるもので安心しました。
    そして、「フリーで、男らしくて、ダンディで、朗らかなナイスミドル」・・・。
    あれ、今一瞬、誰か思い浮かんだような。w
    本編最終話、楽しみにしてますね!

    えぇと、それとは別に。
    seesaaブログでは、記事タイトル一覧を見る事は出来ないのでしょうか?
    FC2の「All archives」みたいな。
    過去の話を探すのに、何ページも渡り歩くのが面倒で・・・。
    仕方無いので、リンク集HPを作ってしまったではないか。
    アップはしてないのでローカル用だけど。
    了承さえ頂ければ、アップして自己ブログにリンクを張りたいです。
    2016年05月23日 20:10
  • ロキ

    >>yukiさん

    ベレギーニャはもともとロシア系の女性形の精霊だったので、ここでは女性になっています。

    自分の作品。キャラの女性率が高いので、イメージが女性だったのはそのせいかも……。

    ただ、もともと番外編はあらすじのような書き方をしていたため、自分の中でもあまり性別に関してイメージがありませんでした。

    最後の話を書く前に、「妻として」という言葉が頭から離れず、結果としてこういう形になりましたが、もっと単純に「結婚して下さい」とかの言葉のほうが良かったか……などと思ってもいます。

    ちなみに。
    自分が参考にしたロシアの精霊達に関する知識は、だいたいこのページから得ています。
    http://rossia.web.fc2.com/sp/folklor/nezhit.html

    モトネタの関係上、作中ではルサ(ールカ)、マーフカ、ベレギーニャが女性。
    モトネタで性別に言及のないレーシイが男性。
    人間ぽくないヴォジャノーイが男性よりの性別不明、という感じで考えています。

    記事タイトル一覧に関しては……。
    調べてみると、なにやらHTMLの撰集とかCSSの編集とかをすると使えるようにはなるみたいなのですが……。
    今まで全く触れてこなかった分野なので、いじるのが怖い……。

    今度ちょっと暇ができたら挑戦しようと思います。

    リンクは、本当に甘えてばかりですが、すみません、よろしくお願いします。すごくありがたいです。
    2016年05月24日 08:59