短編小説『プロジェクト:メトロポリタン美術館」その1 カナリアとクローディア

 MMDを使用して絵本にしようと思っていた構想その2、プロジェクト:メトロポリタンを、その構想を利用して短編小説も書いてみることにしました。

ファンタジーだった「HappyHalloween」と違って、こちらは切ない系SFになります。

ただ、作成に関してはハロウィンの夜までに間に合わせるため、HappyHalloweenの動画や挿絵(どちらもMMDで作製予定)を優先するため、その2はちょっと待ってもらうことになりそうです。

一応、登場人物のカナリアはMMDのエイゼル、クローディアはアーネさん(普段着バージョン)に演じてもらいます。絵は、後日、追記の予定。



プロジェクト:メトロポリタン美術館

01.廃墟
 やや背の低いビル群を、一台の小さなバイクが走っていた。
 辺境地域の都会と言った雰囲気だが、全く人気がない。
 空はどんよりと暗く、強くはないが弱くもない風が吹いている。
 舗装された道路には細かいひび割れがあり、誰も掃除をしなくなって溜まった砂埃が、バイクの後ろで発生している乱流に小さく巻き上げられていた。
 
 人の住まない家は荒れるというが、ここでは街全体が荒れていた。崩れた建物こそ見当たらないが、そこは紛れもなく廃墟だった。

 廃墟のビル群を走っているバイクは、もう100年も150年も前……もしかしたらそれよりももっと昔に販売が始まった、設計の古いモンキーと呼ばれるとても小さい車種で、乗っているのはその可愛らしいバイクに見合った体格の、小さな女の子だった。
 
 荷台には小さなトランペットのケース。
 小さな背中にバイオリンのケースを背負っている。

 ジーパンに赤ワイン色のバイカージャケット。
 皮の耳あてが付いたハーフヘルメットに、楕円の風防が二つ並んだ古めかしいゴーグルを付けていた。
 しっかりと結わえられた銀色の髪の先端が、ヘルメットの後ろから覗いている。
 くすんだ色の街の中で、薄い緑の瞳と白い肌だけが輝いているように見えた。

 街なかの商店街だったであろう一角を抜けた辺り。小さな学校ほどもある2階建ての建物の前まで来て、彼女はバイクを止めゴーグルを上げた。
 建物を見上げて満足げに頷く。
 そしてバイクから降りてヘルメットを脱ぐと、入り口へと歩いていった。
 飾り気のないその建物は、入り口に「○○市・メトロポリタン美術館」とある。
 ○○の部分は、長い年月の吹きさらした風のためか、削れてしまって読むことが出来なかった。

 建物の規模の割には小ぢんまりとした入口の前に立つと、透明で硬質な両開きのドアが、自動で開いた。
 人は居ないが、電気や駆動系はまだ生きているようだった。
 少女が、トランペットのケースとバイオリンのケースを両手に下げて中に入る。
 内部にはホコリなどもなく、掃除も行き届いていた。

「へへ……いい感じ? 宿はここに決めようか」
 少女はいたずらっぽい笑顔を見せた。
 
 中に入るとそこは広いエントランスになっており、左手に受付らしいカウンターがある。
 なんとなく、という感じの足取りで、少女はそこに近づいた。

 すると、暗かったエントランスの壁に全体に、ほのかに白い灯りが灯った。上向きに灯された光が、白い天井で拡散されながら反射し、室内全体を照らし出す。本を読むにはやや暗いが、足下はしっかりと確かめることが出来る程度の間接照明で、この「美術館」がまだ生きていることがわかった。

 自動で灯された灯りに少し驚いた少女が、辺りをキョロキョロと見回す。
 すると、カウンターのスイングドアの向こう側から、小さな円柱型のロボットが姿を表した。
 それがロボットとしての姿を晒しているのはほんの一瞬で、僅かな間に立体投影ホログラムを自身の周辺に投影し、背が高く、胸の大きな女性の姿となって少女を出迎えた。

「ようこそいらっしゃいました。メトロポリタン美術館へようこそ。ここは世界中のあらゆる著名な彫刻や絵画などの美術品、音楽や演劇、映像といった作品、その他にも建築物や自然環境などを、立体映像にて再現し、国中のどこででも鑑賞していただく事を目的とした文化事業「プロジェクト:メトロポリタン美術館」の支所の一つです」
 黒地に鈍い金色のラインが入ったドレスを纏い、やや低めだが柔らかい声で、彼女は挨拶をした。
 長い銀髪を二本の三つ編みに結って背中に垂らし、縁の細い丸眼鏡をかけている。
 ほぼ人間の女性と変わらない見た目だが、耳のみが人間のそれに較べて大きく長くデザインされていた。
「わたくしは、当美術館の学芸員プログラム、クローディアと申します」
 深くお辞儀をして、顔を上げてニッコリと微笑む。
「メトロポリタン美術館のご利用は初めてですか? 何か鑑賞されたい展示品がございましたらお申し付け下さい。個別の作品ではなく、ジャンルを指定してくださっても結構です。わたくしがご案内いたします」

 クローディアにとって、少女はいったい何時以来の訪問者になるのだろう。

 人間の女性にしか見えない非現実の学芸員はしかし、おそらく「普段」と変わらないであろうマニュアルに則って少女を迎え入れた。
 
「失礼ですが、お客様のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 それでも、どことなくウキウキしているようなクローディアに対し、少女は微笑みながら答えた。

「私は……カナリア。カナリア・インザマインです」

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