プロジェクト:メトロポリタン美術館 第一話

以前より、構想だけはあった短編小説「プロジェクト:メトロポリタン美術館」の第一話になります。
三話構成。
一話分5,000文字くらいの予定で考えています。
登場キャラクタは二人のみ。
見た目のモデルは、またぞろ「MMD」から「角娘のエイゼル」「おっぱい角娘のアーネさん 普段着バージョン Ver.1.6」で脳内変換しています。
ただし、今回の話では角と羽はありません。ただアーネさん演じる「学芸プログラム」の耳が長いだけです。

変換 ~ あれはなに? あれはですね…….jpg
~~ 美術品の事について質問する少女と答える学芸プログラム ~~

説明を入れておかないと伝わらなさそうなのが哀しい


全体の構成は終わっているので、さほど時間をかけずに全て書き終わるかと思います。
その際には、何枚かの挿絵をMMDで作ってE★エブリスタとカクヨムに投稿する予定です。



プロジェクト:メトロポリタン美術館

第一話



01.少女とバイクと美術館
 
 甲高いエンジン音が、人の居ない都市に響いていた。
 それは砂埃を巻き上げながら走る小さなバイクで、さほど馬力があるわけではなく、騒がしい割にスピードは出ていない。
 乗っているのは、ゴーグル付きのヘルメットを被った、10代もまだ前半くらいかと思われる少女。
 荷台には、旅行かばん代わりのバイオリンのケースとトランペットのケースを括り付け、全く人気のない都市の大通りを、ゆっくりと走り抜けていった。

カナリアバイク.jpg

 その少女の目の前で、灰のような砂埃が一陣の風に吹き散らされる。
 少女はバイクを停めて、少し咳き込みながらゴーグルに手をやり、位置を直した。

 風が去って、視界が開けた。

 見上げる空は黄土色。
 それと同色の砂埃が、道と街並みに薄っすらと積もっているようで、全てが黄色っぽくくすんでいる。
 
 そこは都市の廃墟だった。

 再びバイクを走らせ始める。
 四つのコルネに結った銀色の後ろ髪がヘルメットに収まりきらず、少女の襟首の上でバイクの震動に合わせて揺れていた。
 着ているのは深紅のジャケットに白いブラウス。
 首には幅の広い焦げ茶のジャボを締め、胴には装飾用のコルセットが巻かれている。
 バイクに乗るため朱いズボンを着用しているが、色合いも見た目もジャケットとはあまり合っていない。
 本来のセットである深紅のロングスカートは、今は丁寧に畳まれてバイオリンのケースの中にしまわれていた。

 少女は、無目的にバイクを走らせていた。
 広い幹線道路を行っていたかと思うと、気まぐれに枝道に入ったり、狭い路地に停めて休んだり、まるで道に迷うのを楽しんでいるかのようだった。

 半日ほど街の中を走り回った後。
 埃っぽい空に光を遮られて薄ぼんやりとしか地上を照らせない太陽が、ついに傾き始めた頃。
 少女は都市の中心部を抜け、街外れの道を進んでいた。

 住宅や個人商店らしき建物。それに小さなビルが並ぶその道の上で、風景を観察しながらアクセルを吹かす。
 
 そんな中で。
 ある建物を通り過ぎた後、少女はバイクを減速させ、路上で停まって振り向いた。
 彼女の視線の先にあるのは、味気ない街並みの中でも特に味気のない、灰色の四角い豆腐のような建物。ひっそりと佇んでいる、実用本位で、でもとても頑丈そうな建築物だった。

 少女は頬に人差し指を当てて首を傾げ、少し思案した後、引き返した。

 入口近くにバイクを止めて、目立たない割に大きな作りのその建物を見上げる。
 そして顔に笑みを浮かべて「ここに決めた」と呟いた。
 
 ゴーグル付きのヘルメットを脱いでバイクのハンドルに引っ掛けると、後部の荷台に括り付けてあったバイオリンとトランペットのケースを両手に下げ、入口に続く低い階段を上がっていく。
 建物の正面玄関は重厚な作りで、その上には看板がかけられていた。

 そこには、旧い字体で「メトロポリタン美術館 九六番館」と記されていた。

 入り口の前に立つと、隔壁を思わせるドアが自動で左右に開いた。
 臆すること無く、少女はその先の闇の中へと消えていった。




02.学芸プログラム
 
 少女が中に入ると、それまで暗かった室内に自動で明かりが灯った。
 照明は周囲の壁を照らし出すタイプのもので、眩しすぎず暗すぎず、それでも壁の反射で室内全体を見回すには十分な光量を保っている。落ち着いていて洗練されたものだった。
 少女が周りを見渡すと、入り口近くに受付用のカウンターが設けられていた。
 誰もいないが、少女はそこに近づいた。
 すると、カウンターの中が明るくなり、少し驚いて脚を止めた少女の見ている前で、立体映像が投影され始めた。
 脚元から浮き出てくるように現れたその影は、やや背の高い若い女性のもの。
 投影完了までの僅かな間は緑がかった霧のような質感だったが、しかしその姿が完全に描き出された後には、もう実際に一人の女性が立っているようにしか見えなくなった。

 投影途中には閉じられていた瞼が開けられる。
「女性」は薄紫の瞳を動かし少女を見、ニッコリと笑いかけた。
「こんにちわ、いらっしゃいませ。わたくしは当美術館の作品照会および解説を担当しております学芸プログラム、クローディアと申します」

クローディア単体.jpg

 やや低い、聞く者に安心感を与える落ち着いた声。
 語りかけられた少女はその丁寧な言葉づかいに知性的なものを感じ取った。
 クローディアは、長身で白い肌の美しい容姿をしており、白味の強い銀髪を背中に長く垂らし、ふとももに付くくらいの部分をリボンでまとめている。
 着ているものは、黒を基調に金で枠取りされたチューブトップタイプの前時代的なドレス。
 腕にはラッパ状に広がった袖が別パーツとして装着されており、さらに黒と白のレースで作られたヴェールを被っている。額には瞳と同じ色の宝石が付けられたサークレットが光り、細縁で楕円形の眼鏡を着用している。
 優しそうな表情をしているが、人間ではないことを示す必要でもあったのか、瞳孔は肉食獣のように細長い。
 さらに特徴的なのはその耳で、拳二つ分ほど長さがあり先端が尖っていた。

 その姿は、学芸員というよりも、おとぎ話や幻想的な創作の中にのみ存在する「人ならざる者の踊り子」といった雰囲気である。

 クローディアはカウンターから出て、自分の胸くらいまでの背丈しか無い少女に話しかけた。
「仮想現実美術館プロジェクト:メトロポリタンミュージアムのご利用は初めてですか?」



03.メトロポリタン美術館

 問いかけに少女が頷くと、クローディアは説明を始めた。
「メトロポリタン美術館は、地域による文化度の差を少なくするために計画された国家プロジェクトになります」
 にこやかに、聞き取りやすく落ち着いた、そしてどこか誇らしげな声で、クローディアは解説する。

 人類の歴史の中でも著名な芸術作品をデータ化し、仮想現実として鑑賞、体験出来るシステムであり、閲覧可能な美術データは、絵画、彫刻、演劇、演奏、文芸、映像作品は言うに及ばず、建築物や自然風景まで至ります。
 このシステムを備えた施設を、各地方の主要都市に設置し、データを共有しながら市民に開放することで、地域による文化教育の差を限りなく少なくすることを実現しました。

「ふーん……なんだか凄いのね。ところでクローディアさん、それではあなたも美術作品なの?」
 解説が一段落ついたところで少女が質問した。
 クローディアは一瞬きょとんとした表情を見せてから「そう言っていただけるのは光栄ですわ」と、微笑んだ。

クローディア単体拡大.jpg

「残念ながら、わたくしの見た目は学芸プログラムのアバターとしてデザインされただけのものです。しかし、姿の投影に関しては、美術品データを仮想現実として鑑賞するためのシステムと同じ技術が使われております。どうです? 本当に目の前に居るようでしょう?」
「確かに、クローディアさんと同じくらいの現実味で再現がされるのであれば、本物を鑑賞するのとあまり変わらないかもしれないわ。私、それを見てみたい」
「かしこまりました。何か、ご希望の作品や、あるいはジャンルがあればお知らせ下さい。わたくしが管理する作品データの中から、お薦めのものをご紹介いたします」
「私は、その……本当は休む場所を求めてふらりと立ち寄っただけだったの。ここが美術館だとも知らなかった。だから特に希望は無いわ。時間だけはいくらでもあるから、片っ端からお薦めのものを見せて頂戴」
 少女の言葉を聞いて、クローディアは少し困った表情を見せて小首を傾げた。
「すべての作品の解説を行う場合、1日8時間をかけても、4379日と少しかかりますが、よろしいでしょうか?」
 その言葉に、少女は右手を見ながら指を折った。
 そして「12年かぁ……」と、呟いてから、クローディアを見上げた。
「全部見られるかどうかはわからないけど、お願いするわ」
「それでは、長いお付き合いになりますが、よろしくお願いいたしますね」


04.少女

 その時、クローディアの言葉を遮るように少女のお腹が鳴った。
 少女は少しだけ頬を赤くし、肩をすくめる。
「ここでは食べられるものはあるのかしら? データじゃなくて、現実の……ね。実はお腹がペコペコで、今は作品鑑賞どころじゃないの」

カナリア腹鳴り.jpg

「メトロポリタン美術館は、緊急時の避難シェルターとしても使われるよう設計されております」

 外見上はただ話しているだけの態を取りながら、クローディアは美術館の外に向けられている各種のセンサーにアクセスし、データを解析する。

「そのため、地下倉庫には5,000人が12年間、飢えを凌げるだけの保存食が備蓄されております」

 非常自体発生時、緊急避難民にのみ解放される事になっているシェルター機能である。
 平時の一般客には、保存食一つ提供する権限すらクローディアには与えられていない。
 だが。
 センサーで集めた環境データは、少女を緊急避難民として認定するに十分な状況であると示していた。

「それでは、地下食堂へとご案内いたします」

 少女が危険物を持ち込んでいないことも確認済み。
 玄関のドアを開ける前にスキャンした少女の身体は普通の人間のそれであり、体内に埋め込まれている幾つかの小さな機械も、健康状態をモニターする機能しか持っていないようだ。
 モニタリングされたデータは自動的にどこかに発信されているようだが、しかしデータの内容は少女の健康状態だけであり、例え受信先がどこだったとしても危険はないとクローディアは判断している。

「ところで、長いお付き合いになりそうですので、お名前を伺いたいのですが」
 廊下を先に立って歩いていたクローディアが振り向く。
「そうね、名乗るのをすっかり忘れていたわ」
 少女は、いたずらっぽく微笑むと、気取った感じのお辞儀をして言った。

「私の名前はカナリア。カナリア・インザマイン」

 顔を上げ「よろしくねクローディアさん」と笑う。

「承知いたしました。それでは行きましょうかカナリア様」
「様? ……様はやめてほしいわ。呼び捨てでお願い。私もあなたのことをクローディアって呼ぶから。それでいい?」
「了解ですカナリア。……ああ、そこのエレベーターに乗って下さい。操作はわたくしが致します」
「クローディアも何か食べるの?」
「いいえ。わたくしは陽の光と風の力、月の引力と地底の炎から引き出した力を栄養にしているので、食事をするわけではありません」
 クローディアが手をかざすと、カナリアの目の前で静かにエレベーターのドアが開く。
「食べ終わったら、着替えたいの。埃っぽかったし、このズボンはバイクに乗るためのものだから、上と合っていな……」
 エレベーターのドアが閉じられ、完全に音を遮断する。

 二人が喋りながら歩いてきた廊下には、ただ静寂だけが残されていた。

To Be Continued!!

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