キキさんのアルバイト その後の話その2 飲み会編08 「火花」 未推敲




BAR「ブレイブ・ハート」のマスターの正体。
ぶっちゃけ、本編でもバレバレな程度にほのめかしてはいましたが、ちゃんと明かしたのはこの単元が初めて。

本編を読んでもらった人でマスターの正体に関してはただ一人だけコメントを来れた人がいましたが。
そもそもさほど読まれている小説ではないので、驚いてくれる読者がほぼ居ないという悲しみ……。

そろそろ続編も投稿サイトに上げて、本格的に宣伝をしなければなぁ……。



プロット

9.火花
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キキさんとルサが去ったソファ席。
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それまでは過去の話をしていたゲーエルーの口調が変わる。
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戦時中から酒好きだったとは聞こえてきていたが、まさかBARのマスターをしているとは思わなかったぞ、勇者。
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戦後処理も全て終えた。余生くらい、好きに過ごしたくてな、とマスター。
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その口調の変わり方に、ハクがギョッとする。ゲーエルーさん、まだ恨みを……?
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恨み……でもある。姉御の首を落ちるさまをこの目で見た。それは今でも焼き付いている。
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ハクもその様は見ている。でも……。
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それに、オレは戦後から今まで、逃げ隠れしながらの生活だったが、ずっと剣の腕を磨いてきた。それは明確な目標があったからだ。
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ハクが不安そうな表情をして、酒をすする。
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ゲーエルーが、ボソっと3日後の早朝、町外れの戦史公園、石碑の前で待つ、と言う。
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ハクが真っ青になる。
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マスターが、承知した、と言う。
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だが、今日は……。ああ、今日は酒を酌み交わして、昔話に花を咲かせよう。ゲーエルーの表情と口調が戻る。
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オレも、あの頃の話が出来るつながりを殆ど失ってしまった。もう、最後の戦いから逃げ延びて、今も下の大地をさすらっているチェーニと、あと何人かくらいか。
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チェーニか。あのシャドウサーバントは厄介だったな。
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味方からしても、クセの強くて扱いにくい奴だったがな。
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言いながら、ゲーエルーはマスターのグラスに酒を注ぎ、また返杯を受ける。
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ハクは、さっきの会話がなんだったのかが理解しきれずに頭の中をグルグルし、その混乱から逃げるように手酌で酒をグラスに注ぎ、飲み干した。
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帰り道。
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酔っ払って歩けなくなったハクをゲーエルーが背負い、一行は夜も開けかけた道を歩く。
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行く手には、戦史記念公園の門があり、その中に入った。そこはカニエーツ戦役で重要な役を果たした小さな城塞の跡地で、かつての戦場には人の背丈の倍はある大きな石碑が立っている。
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その奥にある森から、最果ての森まで、キキさんの「地図の魔術」で帰る。
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ルサが、酔っ払って迷わないでよ、とキキさんに言う。キキさんはそこまで酔ってはいませんよ、というが微妙に普段とイントネーションが違う。
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一団は手をつないで森に踏み込む。ルサはゲーエルーと手をつなげて少し嬉しそう。
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それにしても、ハクが潰れるなんて、どれだけ飲んだんですか……と、キキさんが言っているのが聞こえる。
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ハクは、薄めを開けて外を見ていた。
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あれが、さっきゲーエルーさんが言っていた公園か……と、思いながら、ゲーエルーに体重を預けた。






本文

01.勇者

 ゲーエルーの発言により、場の空気がいきなり変わった。
 ハクはぎょっとして二人を見る。
 
「……ゲーエルーさん……? やっぱり、勇者様にはまだ恨みを……?」
「……嬢ちゃんが思っているような感情ではないが、まあ、恨みと言えば恨みだ。姐御の首が落ちる様は、未だこの眼に焼き付いている」
 それは、ハクも見た光景だった。
「……でも……」
 ハクは言葉を失い、グラスに注がれていた度数の高い蒸留酒を一口に飲んだ。
「私は……勇者様を恨んではいません……」
「それを否定する気はない。姐御のことは戦争の結果だが、コイツがクークラを預けたのは善意だろう。それで嬢ちゃんの人生を救った事も確かだ」
 マスター……いや、勇者をにらみながらゲーエルーは言う。
「だがオレは……逃げ隠れしながらの生活だったとは言え、戦後から今までずっと剣の腕を磨いてきた。それには明確な目標があった」
「それって……」
 もはや、ゲーエルーはハクを見なかった。
 勇者に対して、ゲーエルーは言う。
「三日後の早朝。町外れの戦史公園。石碑の前で剣を持って待つ」
 その声は淡々としていて、気負いや感情は感じられなかった。
 ハクが、ゲーエルーの本気を感じて真っ青になる。
 
 そして。

「承知した」

 とだけ、勇者は答えた。
 が。次の瞬間に、彼はニヤリと笑った。

「だが今日は……。ああ、今日は酒を酌み交わして、昔話に花を咲かせよう」
 言いながら、空になっていたゲーエルーのグラスに、最後に残った“望楼”を注ぐ。その貴重な酒の最後の一滴まで、彼はゲーエルーに捧げた。

 



02.ハクの混乱

 思い出の酒である“望楼”を、宿敵にしてミティシェーリの仇である勇者から、杯に受けたゲーエルーは一息にそれを飲み干した。

 そして、開封されていた別のボトルを片手に取って、勇者の杯に返杯する。
 今度は、勇者がそれを飲み干す。

 そして、二人はさっきまでの明るい口調に戻って笑いあった。

「今思うと。オレも、あの頃の話が出来る仲間とのつながりを殆ど失ったな」
「まあ、俺たち人間の側の陣営は、戦争を生き残ったとしても殆どが寿命を迎えたしな。ベルシアクあたりが生きてここに居たら、今日の飲み会、相当に盛り上げてくれただろうに」
「バガ言ってんじゃねぇ。あの狂戦士の事なんざ思い出したくもない。せっかくの飲み会を、空気も読まずに台無しにするタイプだろ」
「いや……説得力が無いかもしれんが、アイツはあれで俺たちの陣営の宴会部長だったんだぞ」
「……マジか……。バトルアックスをぶん回してくる印象しか無ぇよ」
「あいつ、あれでも戦争を生き延びて、戦後は国教会の重鎮に納まったんだがな」
「……アレがか……? やっぱり、国教会なんて碌なもんじゃねぇな……」
「あれで最終的には国教会の重鎮……それもむしろ良識派の筆頭として尊敬されてたんだぞ」
「えぇ……あのバトルマニアがか……!?」

 ベルシアク、という人間の戦士の事を、ハクは知らない。
 他にもハクの知らない名前や、知らない戦いが、二人の口から次々と出てくる。

 どれも、命のやり取りの話ばかり。

 だが、ゲーエルーと勇者の二人は、それをまるで懐かしむかのように、酒を酌み交わしながら話していた。
 つい先程には、あれほど殺気をぶつけ合ったと言うのに。

 なんでゲーエルーさんは、決闘など申し込んだのだろう。
 理解し難い。
 頭が混乱する。

 あの戦争の原因は、ハッキリ言ってしまえばこちら側にある。確かに自分たちも辛い目にあった。母も失った。けれどそれを恨みとして返すべきでは無いはずなのだ。

 ハクはついて行けないと思った。
 かと言って、今の精神状態ではキキさんやルサたちのところにも混ざりにくい。混乱の果に、ポロっとマスターの正体を喋ってしまいそうだ。

 だから、グラスを重ねた。
 酔いが回り、さっきの話が何だったのか、理解しきれないままに頭の中をグルグル回る。その混乱から逃れるように、さらに手酌で杯を重ねた。

 流石に勇者が……BARのマスターとして出してきた酒だった。“望楼”ほど縁が深いものではないにせよ、非常に美味しいものばかりだった。
 


 


03.酒瓶の数
 
 ゲーエルーと勇者の話は続く。

「オレも……」
 珍しく、軽いながらも酔いの兆候を見せながら、ゲーエルーが呟く。
「あの頃の話ができるつながりを殆ど失ってしまった。あの、魔王砦の最後の戦いから生き延びて、今も下の大地を流離っているヤツなど、チェーニと……あと何人も居ない」
「あれから100年か……」
 時の長さを想い、勇者もまた、嘆息する。
「こちら側で、あの戦争を体験したのはもう俺くらいだろうな。そちらとは寿命が違う。まあ、何らかの呪いか妖精の祝福を受けて時の流れから取り残されたヤツも一人か二人かはいるかも知れないが」
 そして、ゲーエルーの目を見て薄く笑った。
「それにしても、チェーニか。思い出すよ。あいつのシャドウサーバントは厄介だった」
「……味方からしても、クセの強くて扱いにくいヤツだったがな。だが、あの術を厄介の一言で片付けられるのなど、お前くらいしかおるまいよ。……以前、ちょっと手合わせをした時に同じ術をキキさんが使ってきてびっくりしたがな」

 キキさんのシャドウサーバントを「びっくり」ですませながら、ゲーエルーはマスターのグラスに酒を注ぎ、また返杯を受ける。
 既にテーブルには空になった酒瓶が何本も転がっていた。

 そして、その数がおかしい事に気がついて、二人はアレ? という表情をして顔を見合わせた。

「おい? 俺たちいつの間にこんなに飲んだっけか?」
「いや、オレも数えてはいなかったが。……確かに、久しぶりに酔っ払ったが、それにしてもこの数は……?」

 そう言えば、ハクが居ない。
 遅まきながら、二人がその事に気がついた。

 すると、バックヤードから酒瓶を持ったハクが戻ってきた。
 驚く二人に目もくれず、ハクは酒を開封すると、冷気を集中させて綺麗な氷を作り、グラスの中に落とす。
 そして手酌で、それも危なっかしい手つきで、酒を注いだ。

 目が座っていた。
 
「じょ……嬢ちゃん……?」
 ゲーエルーが、彼にしては非常に珍しいことに「恐る恐る」と言った感じでハクに話しかける。
 ハクは、無言のまま、ジロリとゲーエルーを睨んだ。

 その眼は、魔王の娘にふさわしい迫力に満ちていた。

「おい……? プリームラ……?」
 その目つきに、勇者は見覚えがあった。
 
 かつて戦場で見た美しい女魔王。
 戦力として強いわけではないが、それでも彼女が戦場に立つと、周りの氷の種族たちが沸き立ったものだ。
 好戦的ではなかったが、しかし戦場に立つ場合には、彼女は自分の立場とやるべきことをよく把握していた。
 ゾクリとするような、戦場の女神ミティシェーリの眼だ。

「城ちゃん……? 飲みすぎj……」
「なんかもう、どうでも良くなってきました」
 ハクはドスの聞いた声でゲーエルーの言葉を遮った。

「失いたくない。死なせたくない。なのに私の想いを無視して、なぜあなた達は剣を握るのでしょうね」
 怒りに満ちた顔をツンとそむけ、ハクはグラスに満たされた酒を一口で飲み干した。
「なぜ、母を担いで、剣を握ったのでしょうね」

 その後、この宴において。
 ゲーエルーも勇者も、彼女を止めることはできなかった。




04.帰り道
 
 酔っ払って眠ってしまったハクをゲーエルーが背負い、一行は夜も明けかけた歩道を歩いていた。

 行く手には戦史記念公園。
 門を通り、石碑の前を過ぎ、その奥にある整備された林の中の遊歩道に入る。
 
 そこからはキキさんが地図を片手に先頭に立った。
 彼女もまた珍しいほどしたたかに飲んでいるが、その足取りはしっかりしていた。

「それにしても、ハクが潰れるなんて……どれだけ飲ませたんですか……?」
 振り返りながら、キキさんがゲーエルーに言う。
 かつてキキさんは、ハクのペースに合わせて飲んで、ひどい二日酔いになった経験がある。そして、そのキキさんとて酒に弱い方ではないのだ。
「いや……ゆうs……マスターと昔話に花を咲かせていたら、いつの間にか……な」
 ゲーエルーは顎を触りながら、バツが悪そうに答えた。
「まあ、キキ。ハクちゃんももういい大人だ。潰れるまで飲んだんとしても本人の勝手。あるいは本人の責任だ。ゲーエルーさんを責めるのは筋違いだと思うぞ」
 と、ルサが言う。
「それより、お前も随分飲んでいただろう? 道を間違うなよ?」
「……大丈夫ですよ。何年か前に、二日酔いになるまで飲んだせいで、自分の限界点は把握し直しています」
 キキさんはそう答えたが、普段とは微妙にイントネーションが違うことにルサは気づいている。
 それにしても……と、肩をすくめながらルサは言った。
「お前が二日酔い? 珍しいな」
「……ハクのペースに付き合ったんですよ、その時は」
「なるほど。流石に氷の種族か。酒を好むとは聞いていたが。それじゃ今日は、よほど飲んだんだろうな」
「何回か勝手にバックヤードに出入りして酒を持ち出してましたからね。ゲーエルーさんやマスターが飲むものと思って、私も止めませんでしたが」
「私も見ていたが、あれメチャクチャな量だったぞ?」
「マスターには今度、謝りに行かなきゃいけませんかね……。向こうの好意だったとは言え……」
 二人の会話を聞いていたゲーエルーが、そこに割り込んだ。
「その必要はないだろうさ。いい気味……いや、飲むべき時に飲まれなかった酒は不幸なんだろう? 嬢ちゃんは多くの酒を幸福にしてやったのさ」
「……ものは言い様ですねぇ……」
 
 ハクはゲーエルーの背中で、そんな彼女たちの会話を夢うつつに聞いていた。
 薄目を開けて、整備された林道を見ながら。
 三日後の朝には、ここが戦場になるのかな……と、思いながら。
  

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