◇ キキさんのアルバイト その後の話 ◇ その三:ハク達の到着

キキさんのアルバイト。
エンディング乱れ打ちのその三。ハク達が一年くらい旅をして、やっと最果ての森に到着しました。

途中、モコの幻惑的かつ自己中心的な行動に振り回されていた模様。

しかし、クークラはモコに懐いており、また旅慣れているため色々と勉強になることも多く、さらに戦闘能力が高く幻術が得意なので旅の護衛役としても優秀。しかも生物の身体に慣れていないクークラを付きっきりで診てくれる。

そもそもモコに悪意がないため、振り回されつつも楽しい旅になったようです。

話としては、ここまでが、正エンディングの「その一」と、それに関わる話として考えていた範囲。
やっぱり、閑話休題の番外編としてルサの話を書いておいてよかった。

次の一話は、「勇者と会ったことがある氷の種族の二人を含め」皆で飲みに行く話。
最後の最後は、再び旅立つハク一行のゲーエルーに、ルサが(文字通りの)アタックをする話。
最後の最後は、個人的には蛇足かなと思っており、ここで書いてもエブリスタには投稿版には載せないかも……と、考えています。
それにしても。
本当に本当の、ラストが見えてきたんだなぁ……。





◇ キキさんのアルバイト その後の話 ◇
その三:ハク達の到着

その日、キキさんとルサが喧嘩をした。

「今日の掃除は、ルサ先輩の役目だったはずです!」
「いや、わかってるけどなんか身体が動かない。疲れが取れにくい歳になった」
「義勇軍のリーダーが激務だったのは聞きましたが、帰ってからもう一年近く経つんですよ!?」
「……他の子たちには言わないでくださいねー……」

 さすがにキキさんが切れた。

「今、目の前にいない子たちの名前なんて出しても無駄です! ルサ先輩が掃除をしない限り、私も家事全般をボイコットしますからね!」
 なんで暇と人手が増えた後のほうが、館が散らかるんです……ブツブツいいながらキキさんは円卓の間を後にした。
 一人で残されたルサは、大きくため息を付いた。
 身体の疲れは取れたが、心が動かない。
 森の中では常に人目があり、リーダーとして振る舞い、緊張感が途切れなかった。帰ってきてその糸が切れてしまい、なかなか元に戻らない。
 燃え尽きたのかな。
 とは言え、さすがにこのままではマズい。
 せめて掃除を終わらせなければ、飯も作ってくれなくなる。何よりも先輩としての威厳が消え果ててしまう。
「よし!!」
 掛け声を上げて、気合を入れる。両手で自分の頬を打った。
 今日から生まれ変わる。
 山河の義勇軍のリーダーとして。
 四人の後輩を率いていた先輩として。
 頑張っていたあの頃の心を取り戻す。
 そのためにはまず。
 掃除だ。

 ルサがやる気を振り絞り、部屋の片隅に置かれたロッカーから箒を取り出した瞬間。
 正面玄関のほうから、ノッカーが扉を叩く音がした。
「なんだ? せっかくやる気になったのに……」
 箒をロッカーに戻し、ルサは円卓の間を出た。
 ちょうど玄関に向かっていたキキさんと鉢合わせた。
「いや、今、箒をかけようとしてたんだ」
「……へぇ……そうですか……」
 ジト目でルサを見ながら、キキさんは玄関に向っていく。
 悪い流れを感じながら、ルサもそれについていった。

 キキさんが玄関のドアを開けると、そこには五人の集団が立っていた。
 先頭は灰色のローブを纏った男女。氷の塊のようなモノが付いた首飾りをしている。ルサは、見たことはないが氷の種族だろうと思った。
 その後ろに控えている女性が二人。一人は線の細い少女で、もう一人はフードを目深に被った大人の女性。
 そしてもう一人、まだ子供の女の子が、駆け込んできた。
「久しぶりですキキさん! 来ました!」
 女の子が我慢できないようにキキさんに抱きつく。
 キキさんも相好を崩して、その身体を抱きとめた。
「お待ちしていましたよ、クークラ。さあハクも、ゲーエルーさんも……。あれ? あとのお二方は?」
 見ると、後ろに居た二人の女性が、耐え切れなくなったかのように笑い出した。
 ハクが、それを呆れ顔で睨んでから、キキさんに笑いかけた。
 キキさんとハクは、互いの肩を抱いて再会を喜んだ。
「やっと到着しました。長い旅になりましたけど、お陰で色々な土地を見てくることができました」
「久しぶりだな別嬪さん。いやそれにしても立派な屋敷だ」
「こちらこそお久しぶりです。あ、紹介します。先輩のルサです」
 キキさんは後ろに居たルサを手で示す。さっきまでは喧嘩をしていたが、そういうところは如才ない。
「ハクです。お聞き及びかもしれませんが、キキさんには本当にお世話になりました」
 ハクがルサに頭を下げる。そして、後ろの二人に声をかけた。
「二人共、いつまでも笑っていないで、ちゃんと挨拶をしなさい」
 その声に従って、まず背の低い少女が歩み寄り、キキさんに手を差し出した。
 キキさんと握手を交わしながら、その少女は言った。
「久しぶりです、キキさん」
 キキさんは、少し混乱したが、しかしその正体に思い当たった。
「クークラ……?」
「へへへ、言ったでしょう? 今度会う時にはキキさんがビックリするくらいのアニメート使いになっているって」
「……? ……? え!? じゃああっちの人形は……!!」
「アニメートで動かしているんだ……動かしています。自分の意思があるわけではないけど、判断力をもっているので、かなり自律した行動を取らせることが出来ます」
 キキさんが驚きながらそちらを見ると、少女人形は笑いながら言った。
「すごいでしょー!」
 それを見る限り、意志があるとしか思えないのだが、クークラが言う以上このような行動もただの判断であって意志とは違うのだろう。
「……驚きました……」
「いつかは、意思を持ったアニメートをものにしてみせます。それは多分、本当に自分にしか出来ないことだから」

 人間の少女の身体に憑依しているクークラを見ながら、キキさんは思った。
 
 この子が、アニメートに拘った理由が何となくわかった。
 クークラは自分では気づいていないかもしれないけど、それは生物が子孫を残そうとする本能と同じなんだ。
 意思を持つアニメートで作られるもの。
 それは恐らくクークラと同じ種類の魔導生物になる。
 初めてアニメートの術を見た時、それを極めることで同族を増やすことが出来ると、本能的に感じ取ったのだろう。
 クークラのことは、自我を持つ一個の存在として認識していたが、生物かどうかは微妙だと思っていた。しかし、生物の持つ本質的な欲求と同じものを持っていたのだ。
 
 人間の女の子が「恋をする」という形で、本能的に子供を作る準備をするように。
 クークラはアニメートにのめり込んでいったのだ。

 成長が早いわけだ。
 キキさんは天を仰いだ。

「ねー……これならキキ先輩も騙せると言ったでしょう」
 どこか儚げな声で、しかしいたずらっ子のようなことを、フードを目深に被っていた女性がクークラに言った。
「あ!! その声!」
 ハクに挨拶をしていたルサが、鋭く反応した。
 キキさんも思わずその女性を見た。

「「モコ!!!」」

 二人の声が重なると、モコはフードを脱いで特徴的な赤毛を太陽のもとに晒した。

「ただいまです、先輩方」

 まず、ハクが驚いた。
「え!? 知り合い!?」
 しかし、ゲーエルーとクークラ、そして少女人形は、そんなハクに少し白けた対応を示した。
「やっぱり、ハク、気づいてなかったんだ……」
「嬢ちゃん……察しが悪いにも程があるぞ……」
「え? 二人共知って……?」
「そもそもキキさんの事を先輩って呼んでたし……」
「言われもしないのに、最果ての森の館のことを知ってたしな」
「ハクちゃん……ごめんなさいね。どこで気づくかなーとは思ってたんだけど……」
 キキさんはため息を付いてハクに話した。
「この子は、博愛を象徴する赤い月の光が姿と命を持った存在。愛を司り、幻術を得意としますが……」
「……その分、隠し事をしたり、最後まで結論を言わなかったりするのが好きだよね……」
 キキさんの言葉を、クークラが繋いだ。
「悪意があるわけじゃないんだがな」
 と、ルサも呆れたように言った。
「一番下の後輩だが、扱いにくいことこの上ない奴だった。それこそ月の光みたいな儚げな態度に騙されるんだ。よく一緒に旅なんて出来たな。振り回されただろ」
「まあ確かに色々あった」
 ゲーエルーがため息を付きながらルサの言葉に応える。
「てことは、姐ちゃんが一番上の先輩かい」
 ゲーエルーは被っていたフードを脱ぎ、ルサに握手を求めた。
「ゲーエルーだ。この一行の先導役兼護衛をしていた」
 話しかけられたルサは、差し出された手を握り返しながら、マジマジとゲーエルーの顔を見た。
 そして。
「は……はい……ルサ……です」
 と、普段は出すことのないような女性らしい声で返事をした。
 ゲーエルーは無駄に力強い握手をしながら豪快に笑った。
「べっぴn……キキさんにはオレも色々と世話になった」
 ルサは無言でコクコクと頷くだけだった。
 その姿を見て、モコがほう? という表情をみせる。
 キキさんも、ちょっと驚きながらルサを見やった。
 モコは、キキさんの肩を叩いて言った。
「じゃあわたしが皆を客間に案内しますね。キキ先輩のことだから、綺麗にしてあるんでしょう?」
 頷くキキさんに、モコは視線を鋭くして囁いた。
「晩ごはんの後、アニメートの使い方に関して言いたいことがあるんで、ちょっと付き合ってくださいねぇ……それでは、アレのことは任せます」
 と、硬直しているルサを眼で示した。

 モコの先導で、客人たちが全員館の中に消えると、ルサがキキさんの袖を引っ張った。

「おい……あのナイスミドルは誰だ……? 誰なんだ!?」
「前に話したじゃないですか。アルバイト先で魔王の護衛官と知り合ったって」
「戦史書で名前を見たことはあったが……しかしなんかもっと情けなくて卑怯な感じに書かれていたぞ。魔王を見捨てて逃げたんじゃなかったのか!?」
 褐色の肌を朱く染めているルサを見て、キキさんは優越の笑みを浮かべた。
「ルサ先輩。国教会の書いたものを真に受けるとは。意外と初心ですね」
「う……いや……そんなことはどうでもいい。……もうちょっとあの人のことを教えてくれよ」
 キキさんは薄笑いしながら言った。
「それは先輩の態度によります」
 そして、客人を迎える用意をしなくては……と、館の中に入っていった。
「まてキキ……いや、ほら。今まで色々と面倒を見てやったじゃないか。……キキ……。キキさん……キキさーん」
 ルサは、生まれて初めてとなる猫なで声を出しながら、その後を追った。

 全員が館の中に入りドアが閉められると、騒がしかった前庭は、再び静けさに包まれたのだった。

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